
皆さんは「現在進行形としての西洋クラシック音楽」をご存知でしょうか?
たとえばクラシック音楽の代名詞的なモーツァルトやベートーヴェン、ショパンなどは今から約200〜300年前の作曲家です。
一般的にクラシックとして認知されている楽曲は、現代に近いものでも1940年前後くらいまでのものが大半。
20世紀以降のクラシック音楽と聞いても、明確にイメージできない人の方が多いのではないかと思います。
しかし現代に入ってクラシック音楽という音楽ジャンルが消えてなくなったわけではありません。
西洋クラシック音楽の系譜にある音楽は今も作曲され続けており、「現代音楽」と呼ばれています。
今回ご紹介する漫画『ミュジコフィリア』は「現代音楽」に取り組む若き作曲科の学生たちを描いた作品。
クラシックを題材にした漫画は数多くあれど、現代音楽を題材にした漫画は珍しく、とても画期的なことだと感じます。
というのも現代音楽は非常に特殊で、ひとことで表現するとひたすら実験的で前衛的な音楽だからです。
一般的にイメージするクラシックとは真逆の音像であることも珍しくなく、予備知識なく聴くと「はたしてこれが音楽なのか?」と混乱してしまうようなものも珍しくありません。
しかしそれは奇をてらってのものではありませんし、音楽に対する深い思想が導いた一つのかたちでもあります。
そして『ミュジコフィリア』はそんな現代音楽をモチーフとすることで、「音楽とは何か?」「人はなぜ音楽をするのか」を問いかけてくれる、とても深みのある作品です。
- クラシック音楽が好きな人
- ジャンル問わず音楽が好きな人
- 学生時代に吹奏楽や管弦楽をやっていた人
- プロアマ問わず「表現」にたずさわる人

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漫画『ミュジコフィリア』のあらすじ
京都芸術大学に入学した漆原朔(うるしばらさく)は入学式の日程を間違えて前日に登校してしまう。
朔はそこで作曲科の学生を中心とした「現代音楽研究会」の面々と出会う。
映像学科の学生であることを理由に関わり合いをしぶる朔であったが、結局彼らの音楽演奏に参加することになってしまう。
実は朔の実父は著名な作曲家で、幼少期に父から「才能がない」と言われ、ピアノから遠ざけられてしまった過去があった。
そして京都芸大には作曲家の卵として才能を期待されている腹違いの兄、貴志野大成も在学していた。
父と兄への屈折した思いから音楽に正面から向かえない朔だったが、研究会のメンバーとの関わりの中で、次第に音楽の楽しさを思い出していく。
漫画『ミュジコフィリア』の作品情報
次に『ミュジコフィリア』の作品情報について。
作品の基本情報
タイトル | ミュジコフィリア |
作者 | さそうあきら |
出版社 | 双葉社 |
掲載誌 | 漫画アクション、Web漫画アクション堂 |
レーベル | アクションコミックス |
巻数 | 全5巻 |
連載期間 | 2011年1月18日〜2012年11月20日 |
『ミュジコフィリア』は連載中に掲載媒体をWEBメディアへと移行し、2012年に全5巻で完結しています。
ミュジコフィリアの言葉の意味は?
「ミュジコフィリア」(musicophilia)とは、直訳すると「音楽嗜好症」(おんがくしこうしょう)。
音楽嗜好症は音楽に異常に取り憑かれる状態をさす病名で、医学的には共感覚に関連するものから脳機能の障害をともなうものも含まれるようです。

映像や音楽、文章などをトリガーとして、他の感覚的刺激が引き起こされること。ドレミファソ……の音階それぞれに色を感じるなどが代表的です。
この作品では冒頭で主人公の漆原朔が幼少期に鴨川の音にらりっていたというエピソードが描かれますが、まさにミュジコフィリアの一種でしょう。
また本作品では作曲科で音楽に没頭する音楽家の卵がたくさん出てきますが、彼らを指して比喩的に表現したものとも解釈できます。
漫画『ミュジコフィリア』の魅力
ここでは作品の魅力と見どころについてご紹介します。
本作品が語られるとき、現代音楽を扱っているということにフォーカスされがちですが、作品の魅力はそれだけではありません。
先端にある芸術の姿からそれに関わる人々の普遍的な事柄まで、幅広く見せてくれる作品です。
音楽を追求する若者たちの群像劇
難解な現代音楽を描いた作品ということで、難解な内容なのでは?と警戒する方もいらっしゃるかもしれませんが、本作品は芸術に向かう芸大の学生たちの群像劇としても楽しめます。
真摯に音楽に向かい、ときには他人の才能に嫉妬し、またあるときは男女の恋愛感情に振り回されたりと、青春の中に生きる若者たちが漫画らしく生き生きと描かれています。
特に20代前半の若者たちが集まる中で欠かせないのが恋愛要素。
本作品は恋愛ものとして読んでも素晴らしく、憧れの年上の幼なじみが異母兄の公正と付き合っている朔の屈折した心情や、その朔に思いを寄せる浪花凪との関係性は読んでいて胸が痛くなるほど。
また浪花凪が朔に惹かれたきっかけも音楽による共感覚を通じて。
このようなディテールも、音楽家の物語ならではではないでしょうか。
幸せな話ばかりではなくエピソード的に重い話も出てきますが、彼らは皆何にも先行してまず音楽家として存在しています。
音楽とのあり方を問う中で自分なりの答えを導き出していく様子は、まさに表現者のストーリーだと感じます。
才能を軸に向かい合う、親子・兄弟の確執
主人公・朔の父親は世界的な作曲家である貴志野龍。
才能あふれる音楽家である一方で女性関係は乱れており、朔は愛人の子どもとして生まれます。
朔は幼少期まで貴志野家で暮らしていましたが、ある日父親の「お前は才能がない」のひとことで、ピアノから遠ざけられ、その後の音楽教育は正妻の子である兄・大成(たいせい)に奪われてしまいます。
幼少期から聴覚に優れ、音を楽しみながら生きてきたはずの朔は、それをきっかけに音楽に鬱屈した思いを持つように。
一方の大成は父の英才教育により、才能ある音楽家の卵として将来を嘱望される存在にまで上りつめます。
幼少期にピアノを奪われ、また思いをよせる幼馴染の小夜が大成と付き合っているという状況からも、兄に対して敵愾心を燃やす朔。
しかし大成は、父親の偉大なる才能の影響下から抜け出せないことに人知れず苦悩します。
また朔は「父親の音楽が人を殺した」ことを知っており、実父・龍に対しても激しい憎しみを抱えています。
このように音楽と才能を挟んだ肉親同士の争いがこの物語のもう一つの軸となっているのですが、物語が展開していくに従い、この三者の「才能のあり方」が次第にほころび始めていきます。
才能とは何なのか、そして才能とは無条件に見出されるものなのか。
偉大なる音楽的才能が企図した思惑が次第に明らかになるにつれ、音楽の一つの側面があらわになる様は、良質なサスペンス小説のような風合いすらあります。
このトライアングルを崩すものの登場やそこに託された意図、また親殺しの物語がどのような結末を迎えるのかなども、ぜひ見届けていただきたいと思います。
現代音楽という芸術様式
中心的テーマとして通奏低音のように『ミュジコフィリア』を貫くのが「現代音楽」。
この一般的には聴き慣れない現代音楽に触れられるのも、『ミュジコフィリア』ならではです。
現代音楽は西洋クラシック音楽の流れをくむ音楽ですが、成り立ちとして、それまでの音楽的な前提であった「調性」を逸脱するところから始まっており、鑑賞するためには最低限の音楽的な知識が不可欠です。
音楽史的な文脈の理解が不可避なため、やや難解にならざるをえないところを、漫画のフォーマットの中でうまく解説してくれています。
なお調性からの逸脱から始まった現代音楽は次第に調性のない「無調」の世界へと向かっていき、それを成立させるために前衛的で実験的な音楽技法が次々と生まれました。
どういったコンセプトのもとにどのような技法が生まれ、どのような音楽が作られてきたのか。
また今現在進んでいる現代音楽がどのようなものなのかが丁寧に描写されているので、きっと知的好奇心が刺激されまくるのではないかと思います。
現代音楽の枠を超えた音楽の広がり
中盤以降、朔は現代音楽の枠を飛び越えて、音楽の喜びを探求していきます。
電子音楽やサンプリング、民俗音楽など、より自由な音楽領域へと探求の足取りを向けていく朔はまさに体験する哲学者のよう。
正規の音楽教育からパージされた存在である朔だからこそ到達できた領域かもしれません。
そして最後に彼の身に起こったことには震えを感じずにはいられませんでした。
淡々としつつもデッサン力の高い独特の絵柄
重くなりそうな物語でも、さそう先生のどこか淡々とした絵柄やキャラクターのテイストが絶妙なクッションになっています。
さそう先生の絵のテイストが個人的に好きというのもありますが、キャラクターの「間」などもよく、読み疲れなく一気に最後まで読み進められるでしょう。
女性キャラクターも素敵で、浪花凪もめっちゃ美少女ですね。
またあれだけたくさんの楽器を描いてもデッサンが崩れないのは、音楽漫画を描き続けてきたさそう先生ならではでないでしょうか。
漫画『ミュジコフィリア』の映画化情報
『ミュジコフィリア』は2021年に井之脇海さん、松本穂香さん主演で映画化されています。
監督 | 谷口正晃 |
脚本 | 大野裕之 |
音楽 | 佐々木次彦ほか |
主題歌 | 松本穂香「小石のうた」 |
出演 | 井之脇海、松本穂香ほか |
公開年 | 2021年 |
『ミュジコフィリア』に出てくる現代音楽は多くの人が耳慣れないであろう音楽。
漫画の作中で取り上げられている楽曲がどんな曲なのかイメージがつかない方も多いかもしれません。
しかし映画では実際に音を耳にできるのが利点。
今後、各動画配信サービスの配信ラインナップに並ぶことが予想されるので、ぜひこちらもあわせて視聴してみることをおすすめします。
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