漫画『坂道のアポロン』の魅力を解説!繊細で美しいジャズと友情の物語

人生を描いた物語は数多くありますが、そこに真実味のある手触りを感じられることはなかなかありません。

なぜなら出会いと別れがあっても、人や関係の変化してゆく様を描くことはとても難しいからです。

そしてそれは繊細で感性に満ちた十代を描いた話であればなおさらではないでしょうか。

今回ご紹介する『坂道のアポロン』がどのような作品であるかは、きっと人によって異なるでしょう。

ある人はジャズ漫画と取るかもしれないし、またある人は恋愛漫画青春漫画として読むかもしれません。

しかし私が全編を読み終わって漏れ出た感想はただ一つ、「この作品、人生やん……。

青春の時間はとても美しく、それゆえ永遠には続きません。

永遠に思えるようなときも、後から振り返ると奇跡のような一瞬でしかなく、そして悲しみや別れも新たな出会いや喜びの始まりに過ぎない。

そんなことを思い出させてくれる作品です。

『坂道のアポロン』はこんな人に読んでもらいたい
  • 青春漫画が好きな人
  • 少女漫画、女性漫画に抵抗感がある人
  • ジャズが好きな人
  • 人生に疲れた年配男性

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タップできる目次

漫画『坂道のアポロン』の作品情報

未読の方のためにまずは作品情報から。

作品の基本情報

タイトル坂道のアポロン
作者小玉ユキ
出版社小学館
掲載誌月刊フラワーズ
レーベルフラワーコミックスα
巻数全9巻+番外編1巻(完結)
連載期間2007年9月28日〜2012年7月28日

『坂道のアポロン』は本編が全9巻で完結。

本編完結後は追加エピソードとして、連載の中で語られることのなかった物語が本誌に6話分続けて掲載されています。

これらの番外編は単行本『BONUS TRACK』に収録されており、ただの番外編には収まらない内容

個人的には必読だと思っているので、実質的に全10巻と言ってよいと思います。

作品の受賞歴

『坂道のアポロン』は下記のコンテストで受賞しています。

アニメ化や映画化もされているので、興味を持たれた方はぜひそちらもご覧ください。

記事の終盤でご紹介しています。

作品の著者情報

『坂道のアポロン』の作者、小玉ユキ先生は2000年に漫画家としてデビュー。

デビュー作として、宝島社の雑誌「CUTiE Comic」にて『柘榴』(ざくろ)という作品を発表しています。

2007年から2012年まで『坂道のアポロン』を連載した後、2013年から2017年まで『月影ベイベ』を連載。

『月影ベイベ』は伝統芸能の「おわら」を題材にしており、『坂道のアポロン』とは別の方面から音楽を取り上げています。

その後、2017年から2018年まで連載された『ちいさこの森』を経て、現在は『青の花 器の森』を月刊フラワーズにて連載中です。

漫画『坂道のアポロン』のあらすじ

『坂道のアポロン』1巻
出典:『坂道のアポロン』1巻

まずは作品のあらすじから。

物語の舞台は1966年の佐世保。

東京から転校してきた高校生•西見薫は転校初日に札付きのワルと恐れられる川渕千太郎と出会う。

都会育ちの秀才で神経質な薫と大家族でバンカラな不良の千太郎。

一見正反対な2人だったが、ジャズドラムを叩く千太郎をきっかけに薫はジャズの魅力に引き込まれていく。

ぎこちないながらもセッションを交わすことで、関係が友情へと変わっていく薫と千太郎。

やがて薫は千太郎の幼馴染の律子に恋をするが、律子は長い間千太郎に思いを寄せていた。

そして千太郎はある女性と出会い恋に落ちる……。

薫と千太郎という男2人の友情の間に律子という異性が存在することで、薫と千太郎の関係はややもどかしいものに。

そして登場人物が増えていくたびにそれぞれが秘めた思いを持ち始め、お互いの関係がより複雑になっていきます。

漫画『坂道のアポロン』の魅力

『坂道のアポロン』3巻
出典:『坂道のアポロン』3巻

ここでは作品の魅力を未見の読者の方のためにいくつかご紹介したいと思います。

『坂道のアポロン』は繊細な絵のタッチのせいかうっかり見過ごしがちですが、本編はたったの9巻なんですよね。

意外にも少ないページ数の中でこれほどまでに引き込まれる物語を見せてくれるのは、完成度の高さを物語っていると言えるでしょう。

薫と千太郎の友情の美しさ

『坂道のアポロン』4巻
出典:『坂道のアポロン』4巻

直球で見出しをつけましたが、この作品で描かれる2人の関係は本当に美しいというほかありません。

(今風に言えば「尊い」とでも表現すればいいのかもしれない)

最初はお互いが異物のような存在であった2人ですが、ジャズをきっかけに少しずつ関係が変化していき、やがて「とにかくこいつの味方でいよう」(薫)とまで言わせるほどに。

2人は正反対のように見えて実は根底にある体験や境遇は似ているんですよね。

それぞれ居場所がなく1人では解消できない寂しさを抱えているからこそ、お互いを重ね合わせられるのかもしれません。

ともかくお互いがお互いを口にせず気持ちを思いやるんですよね。

あいつはきっとあのときこうだったはずだ、みたいな……。

薫と千太郎のあいだだけでなく、律子に対しても同様で、「あいつがこう考えてたことに対して自分はこう思ってたことに自分は気づいた」みたいな込み入った心理描写がかなり多いです。

しかしそうは言いつつも登場人物たちは高校生。

変に意固地で一本気なところがあったかと思えば折れそうに弱いところもあったりで、不器用さとアンバランスさが思春期を思い出させてくれます。

そしてその季節もやがて移り変わっていく……。

少年たちの心理を繊細で丁寧に描けるのは少女漫画のカテゴリ以前に作者の小玉ユキさんの圧倒的な才能と言えますね。

繊細に描かれる関係性の変化(と喪失)

『坂道のアポロン』にここまで引き込まれる理由には、人と人との関係の変化を繊細に描いているからでしょう。

少しずつ変わっていく薫と律子、律子と千太郎の関係も、細かなしぐさや呼び名の変化で繊細に表現されています。

(薫は「メガネをはずすと顔立ちがきれい」と律子に言われたことに気をよくして律子と会うたびにメガネを外していたり)

しかしそんなお互いの関係もあるときは気持ちのすれ違いや勘違いだったり、またあるときは時代の流れに翻弄されて次第に変化していきます。

そして終盤には決定的な事件が起きてしまうのです。

人生において美しい時間は長く続かないことを僕たちは知っていますし、そういったものが消えていく喪失感こそむしろ人生の本質に近いのかもしれません。

しかし人と人は新たに出会い直すこともある……。

『坂道のアポロン』はそのような変化を説得力のあるストーリーで見せてくれます。

ジャズを通して描かれるそれぞれの関係性

『坂道のアポロン』5巻
出典:『坂道のアポロン』5巻

『坂道のアポロン』はジャズが非常に重要な要素として描かれています。

この作品は決してジャズ漫画ではありませんが、即興を重視するジャズの音楽性は関係性を緻密に描くこの作品にとってとても象徴的です。

ジャズを語った漫画ではないですが、ジャズ以外の要素では決してこの作品のドラマは成り立たなかったでしょう。

またそれぞれの担当楽器がキャラクターに合っているんですよね。

薫はいかにもピアノだし、千太郎もドラム以外ありえない。

淳兄(じゅんにい)はトランペッターでチェット・ベイカーばりに歌まで唄えるなどイケメンぶりが過ぎるくらい。

また終盤では意外な人物が意外なかたちで音楽に参加することになりますが、それも全く違和感がないうえに全てを回収するかのごとくきれい過ぎて納得感しかありませんでした。

(そしてそれが成就した瞬間もとても感動的でした)

また作品の舞台である1966年は音楽史的にも大きな転換点となった年。

1966年はビートルズのアルバム『リボルバー』が発表された年であり、このアルバムでは前作『ラバー・ソウル』でそれまでのアイドル路線から脱却したビートルズがさらに音楽的な実験を深めていきます。

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ビートルズやロックは新たな人気を獲得していきますが、一方のジャズは入れ替わるようにこのあたりから次第に人気にかげりが見えはじめてくるのです。

実はジャズにそこはかとなく漂い始めていた閉塞感を感じつつ読み進めていただくと、また少し違ったニュアンスが見えてくるのではないかと思います。

学生運動などの時代背景の描写

『坂道のアポロン』6巻
出典:『坂道のアポロン』6巻

『坂道のアポロン』は60年代の物語ということもあり、学生運動についても語られます。

ジャズに反体制と知性の匂いを感じ取った当時の学生たちに特に好まれたというのも理由の一つかもしれません。

非常に政治的なテーマですが、感傷やノスタルジーに覆い隠してしまうのではなく、きちんと時代背景と向き合い描いていることにまず驚きがありました。

また学生運動との関わりに物語として必然性を持たせたのもよりドラマに深みを生んでいると思います。

ジャズ演奏の躍動感を描ききる画力

『坂道のアポロン』の魅力の一つがジャズセッションのシーン。

本当のセッションを目の当たりにしているかのような躍動感があり、漫画の中で音楽をうまく表現できた稀有な例ではないかと個人的には感じています。

背中の丸め方や腕の折り曲げ方、手首の角度といった姿勢や表情にまるで音楽が宿っているようかのよう。

音の出ない漫画という媒体で音楽を表現するのは非常に難しいことだと思いますが、まるで違和感なく物語にぐいぐい引き込んでくれます。

漫画『坂道のアポロン』のアニメ化・映画化情報

『坂道のアポロン』は2012年にフジテレビのノイタミナ枠でアニメ化され、2018年には知念侑李さん、中川大志さん主演で実写映画化されています。

アニメ版『坂道のアポロン』

監督渡辺信一郎
脚本加藤綾子、柿原優子
音楽菅野よう子
アニメーション制作MAPPA×手塚プロダクション
声優木村良平、細谷佳正、南里侑香ほか
放送年2012年
話数全12話

アニメ版は『カウボーイビバップ』以来となる、監督の渡辺信一郎さんと音楽の菅野よう子さんのタッグということで、かなり話題になったようですね。

実写版『坂道のアポロン』

また実写映画版の情報は以下のとおりです。

監督三木孝浩
脚本髙橋泉
音楽鈴木正人
主題歌小田和正「坂道を上って」
出演知念侑李(Hey! Say! JUMP)、中川大志、小松菜奈ほか
公開年2018年

実写版はアイドルグループ「Hey! Say! JUMP」の知念侑李さんと俳優の中川大志さんがそれぞれ薫と千太郎を演じられています。

また律子役を小松菜奈さんが演じられているほか、淳兄をディーン・フジオカさんが演じられています。

9巻までのストーリーを1時間半におさめているのでところどころでアレンジはされているようですが、興味のある方はぜひこちらもチェックしてみてください。

個人的には中川大志さんとディーン・フジオカさんはなかなかハマっているのではないかと思います。

『坂道のアポロン』の次に読んでほしい作品

ここでは独断で選んだ『坂道のアポロン』の次に読んでもらいたい作品をご紹介します。

ちなみにここで紹介するのは小説とエッセイ。

いわゆる『坂道のアポロン』的なテイストの作品ではありませんが、それぞれとても面白い作品なのでぜひ機会があれば読んでみていただければと思います。

村上龍『69 sixty nine』

『坂道のアポロン』と同じく長崎の佐世保を舞台にしたコミカルな青春小説。

作品のテイストは真逆かというくらい違いますが、設定にいくつもの共通項があるので楽しめるのではないかと思います。

  • 1969年の長崎の佐世保が舞台
  • 主人公が高校生
  • 主人公たちがバンドを組む(『69』ではロックバンド)

『69』は著者の村上龍の高校時代をモデルにした自伝的な小説なのですが、実は村上龍は小玉ユキと同じ佐世保出身

高校も同じ佐世保北高校を卒業しています。

この佐世保北高校は薫たちが通う佐世保東高校のモデルと言われており、つまり『アポロン』と『69』は同じ舞台で描かれた物語と言えます。

1966年と1969年、ジャズとロックという対比で読んでも面白いかもしれません。

ちなみに村上龍の上京後の生活が『限りなく透明に近いブルー』に続いていくわけですが、『69』では後の退廃っぷりはまだ微塵もありません。

村上龍映画小説集』も『限りなく〜』と同時期を描いた作品ですが、これらをあわせて読むと当時の若者たちの無力感や焦燥感といったようなものが追体験できるかもしれません。

村上春樹『ポートレイト・イン・ジャズ』

ジャズピアニストのビル・エヴァンスのアルバムからタイトルを借用した一冊。

ジャズに造詣の深い小説家の村上春樹が、ジャズミュージシャンをテーマに書いたエッセイ集です。

ジャズを語りつつもジャズの解説書ではないのですが、ジャズの風合いやジャズミュージシャンの生きざまを感じられる素敵な1冊だと思います。

Amazonなどで公開されている試し読み部分だけで心に響くのはさすがです。

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『坂道のアポロン』は番外編を含めて全10巻。

巻数は意外にも少なく読み始めやすいため、未読の方にはぜひおすすめしたい作品です。

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ぜひ下記の記事を参考にしていただければと思います。

また音楽を題材にしたおすすめ漫画も紹介していますので、ぜひこちらもあわせてご覧ください

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